Rainy garden
〜現代編〜
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 乾いた草原に一機の飛行機が不時着した。 原因はおそらくオーバーヒートだと操縦士は告げた。直せない不調ではない。だがあいにくなことに、冷却水の予備の持ち合わせがないと泣きそうな顔で言った。蒸留はできる。どこかの水を使えばいいと思った。迂闊だった。そんなものより早く変形時パーツの軽量化と互換性を、と言うところで乗員の一人が話を遮り、おもしろいじゃないか、なんとかなるさ、そう言って笑った。もう一人が視線を草原の果てに向けて、川の跡があるなと呟く。 「行こう」 ソニックとテイルスとナックルズの三人は、果てなく続く草原の真ん中を歩き始めた。  時間を少し前に戻す。彼らは相も変わらず某天才化学者が作り出した最強のメカ軍団と戦っていた。毎度おなじみの「最強」メカとしては今回の相手は中々の強者だったと言えよう。野を山を海の底を駆け回り、最終決戦は空の上で迎えた。罠だらけの空中要塞で、襲い来るロボットの軍隊に巨大なレーザー砲、圧倒的な力で空から地上へ狙いを定める、振り、のはずがお決まりの暴走、天才化学者はおそらく途中からどこかへ振り落とされており、ただ破壊衝動だけをたたえた最強のメカに立ち向かえるのは、もはや七色の光をその身に集めた金色の英雄だけだった。爆発的な閃光に合わせて飛び立った飛行機は離れた空からその激しい戦いを見守り、戦艦がゆっくりと傾いていくのに合わせてスピードを上げると、英雄と色を失った奇跡の宝石を見事に受け止めて空の果てへと飛び去っていった。  そして、オーバーヒートである。無理もない。奮闘した仲間を草原にひとり置いて行くのは心苦しく、テイルスは何度も何度も振り返っていたが、やがて背の高い草むらに差し掛かり、無事を祈ることしかできなくなった。草の多い河岸を避けて、丸い石が転がるばかりの渇いた川の中を歩く。トルネード、大丈夫かなあ。この期に及んでなおテイルスが言い、早く見つけてやんないとなとソニックが言う。その様子にナックルズは眉間へ深く皺を寄せていた。  突然草むらが揺れた。立ち止まり、瞬間的に身構える。彼らがいる場所はサバンナで、力と適応に重点を置いた動物達の縄張りで、自分達は勝手も知らない侵入者だった。襲いかかられても文句は言えない。息を詰め、草の奥を視線で探る。どうあがいても不自然さのぬぐいきれない沈黙は、草を隔てた向こう側からもじっとこちらを見ている気配そのものだった。太陽が焼く中、時が止まったような空隙があり、がさ、と突然草むらが動いた。そして続けてがさごそと揺れた。あまりに唐突で適当な動きに3人は空を踏んだように草むらを眺め、そのままたいした警戒もなしに手で草を分けて現れた金の毛皮と丸みを帯びた厚い耳、強いアイラインに縁取られたペリドットの瞳の猫科の何かと、ばっちり目を合わせて見つめ合った。恐らくは幼い少年であるその生き物は、にゃーおとぎゃーおの間で鳴いた。 (……to be continued.)